高齢者向けの施設として「ナーシングホーム」という言葉を聞くようになりました。
介護が必要な方が入所・入居する施設と言えば、
一般的に「老人ホーム」がイメージされます。特別養護老人ホーム・有料老人ホームなどは日常生活でもよく耳にします。
ナーシングホームと老人ホームは、どのような違いがあるのでしょうか。ここでは、老人ホームの概要を説明した上で、ナーシングホームと老人ホームの違いについて解説します。
1.そもそも老人ホームとは?
「老人ホーム」と一口に言っても、実は7種類の施設があります。
特別養護老人ホーム・養護老人ホーム・軽費老人ホーム・介護付き有料老人ホーム・住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・認知症高齢者グループホームです。それぞれの老人ホームは、入所・入居できる条件や介護サービス・費用面などの違いがありますが、基本的には高齢者が介護を受けながら生活する住まいとなっています。
老人ホームでは、高齢者はいろいろな介護サービスを受けることができます。食事やトイレ・入浴の介助であったり、レクリエーションであったり。利用者は、安全に、可能な限り快適に日常生活を送ることができるのです。
一方で、老人ホームは、提供できる医療サービスが限られています。インスリン注射をしたり、経管栄養や胃ろうの処置をしたりすることはできますが、ターミナルケアや人工呼吸器の使用といった専門性の高い医療処置には対応できない施設がほとんどです。
(参照元 厚生労働省|厚生労働省|介護を受けながら暮らす高齢者向け住まいについて―住まいとサービスの関係性― )
2.ナーシングホームと老人ホームの違い
ナーシングホームは、日常生活で医療的なケアが必要な方も利用できる施設です。一般的な老人ホームに比べ医療提供体制を強化しているので、専門性の高い医療処置を行うことが可能です。
老人ホームでは、看護師の人数が少なかったり、夜間帯に看護師が不在であったりします。そのため、医療的なケアが必要な場合は、入居を断られてしまうケースが多いです。
多くのナーシングホームでは、24時間365日体制で看護師が常駐しています。あるいは、近隣の訪問看護ステーションと連携し、夜間帯にも訪問看護や見守りサービスが提供できる体制を整えています。例えば、昼夜を問わず頻回にたんの吸引が必要、人工呼吸器を使用しているなど。専門性の高い医療処置が必要であっても、老人ホームのような介護を受けつつ、医療的なケアも継続して行うことができるのです。
3.ナーシングホームは「介護保険非対象の方」も入居しやすい
一般的な老人ホームは、入居条件が60歳または65歳以上の要介護者に設定している場合が多いです。そのため、それよりも年齢が若かったり、介護保険の対象でなかったりすると、そもそも老人ホームを利用できないのです。
それに対し、ナーシングホームは、60歳未満や介護保険非対象の方も入居することができます。これは、ナーシングホームは全国的に受け入れ条件が一律に定められていないため、事業者独自に入居条件を設定することができるからです。
交通事故が原因で人工呼吸器を使用している、末期がんでターミナルケアを必要としているなど。老人ホームでは入居を断られやすいケースも、ナーシングホームであれば受け入れてもらえる可能性が高いです。
医療・介護が必要な方の窓口が広いのがナーシングホームです。気になった方は、お住まい近くのナーシングホームを探してみてはいかがでしょうか
4.ナーシングホームに入居するには?
ナーシングホームに入居するまでには4つのステップが必要です。
① ナーシングホームを探す
まずは、入居を希望するナーシングホームを探すことです。インターネットでお住まい近くを検索すると、地域によってはナーシングホームを見つけられます。
また、自身で探すのが難しい場合は、入院先の医療ソーシャルワーカーや地域包括支援センターに相談しましょう。どちらも地域の医療・介護施設に精通しており、入居候補となるナーシングホームを紹介してくれます。
② 問い合わせ、見学
気になったナーシングホームが見つかったら、次は施設に問い合わせ、施設内を見学します。多くのナーシングホームはホームページを作成していますが、実際に見学してみないと、施設の雰囲気やスタッフとの相性はわからないものです。
可能であれば、入居されるご本人が直接見学することをおすすめします。
③ 入居を申し込む、スタッフと面談する
それから入居の申し込みと、スタッフとの面談をします。医療・介護の提供体制があると言っても、ナーシングホームごとに対応可能な疾患や処置を設定しています。そのため、面談などを通して入居可能かどうかの判断がされるのです。
④ 入居の手続きを行う
ナーシングホーム側から入居可能と判断されれば、入居の手続きに進みます。
以上が、ナーシングホームに入居するまでの流れです。
需要が高まるナーシングホーム
これまでは、急性期・回復期の入院治療が終了してからの退院先としては、慢性期病院や老人ホームが主流でした。高齢者は、退院先で必要な医療や介護を受けることができたのです。
しかしながら、人口の少子高齢化に伴い、慢性期病院をはじめ全国的に病床数(病院のベッド数)が削減されています。厚生労働省によれば、日本の病床数は1993年に1,680,952床でピークを迎え、2021年には1,500,057床に減少しました。国としては、今後も病床数が削減される方針です。
病床数が削減されれば、入院費用が抑えられ医療費が減少しますが、継続して医療・介護を必要とする高齢者の受け皿が少なくなります。また、病院から自宅に退院しようにも、老々介護・介護離職などの問題があったり、地域の医療提供体制が不十分であったりして、自宅退院できないケースもあるのです。
このような現状を背景に、継続的に医療・介護を受けながら生活できる住まいとして、ナーシングホームが求められるようになりました。最近では、住宅型有料老人ホームの医療提供体制を強化し、ナーシングホームとして新たに運営を始める事業者が増えています。
(参照元 厚生労働省|地域医療構想について 、医療提供体制の現状 ~病院数の推移~ )
5.住み慣れた地域で自分らしく暮らす”ためのナーシングホーム
日本では、2025年を目途に地域包括ケアシステム の構築を推進しています。
地域包括ケアシステムとは、高齢者の尊厳保持と自立生活の支援を目的に、
可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで送れるよう支援・サービスを提供する体制のことです。「住み慣れた地域で自分らしく暮らす」とは言っても、自宅・病院・介護施設など生活の場はさまざまです。
しかしながら、病床数削減に加え、老々介護・介護離職などの問題もあり、
医療・介護どちらも必要とする人たちの行き場はなくなっています。
一方で、最近では、医療・介護どちらも継続的に受けられるナーシングホームが増えています。
自宅で生活するのは難しい、介護施設に入居を断られたなどの問題で悩んでいるのでしたら、
「住み慣れた地域で自分らしく暮らす」場として、ナーシングホームを検討されてみてはいかがでしょうか。
ベストリハのナーシングホーム
プロフィール
田口 昇平
作業療法士/福祉住環境コーディネーター2級/取材ライター
作業療法士免許取得後、東京都内のリハビリ専門病院や介護施設などに勤務。2018年よりフリーライターに転身。医療介護従事者への取材をしながら、現場の業務改善や労働環境づくりなど幅広いテーマで執筆。